愛しい魔王様泣かないで!私はここにいます

第2章 ここにいます-4

 それにしても、今、ぺちぺちと頬を叩いてくる小さな手は……腑抜けていたら引っ叩きにくればよいとは言ったが。
 これは、夢ではないのか。
(いや、この確かな重みが、夢であるはずがない)
 彼はついに目を開けた。紫色の瞳が覗き込んでくる。金糸に覆われた丸い顔。間違えようがない。彼女だ。生まれ変わって、帰ってきてくれた。
「……やあ」
「おそくなってごめんなさい。ただいまもどりました」
 あどけない口調。
「記憶があるのか? 驚いたな」
 すべてまっさらになって、生まれ変わると思っていた。
「天のお方のご配慮です。あなたがおかわいそうで、見ていられないとおっしゃって」
 まだ子供の声だが、舌足らずな感じはもうほとんどない。泣きたいほどに懐かしい、妻の話し方だ。
「……あいつが、俺をかわいそうなどと言うものか」
 天界の悪友の顔が浮かぶ。
「ふふっ。……あの方は、私があちらへ着いた時、困った顔をなさいました。『ずっとあっちにいてもよかったのに』って」
「それは……天界のルールも何も、あったものではないな」
 苦笑が漏れる。笑ったのは、彼女が眠りについて以来、初めてのことだ。
「ええ、本当に。ねぇ、アンジェ様、聞いてください。私、優秀なんです。天界でのお仕事、一万年分を千年で終えました。そのご褒美に、ここに少なくとも一万年はいられるんです」
「あいつめ……」
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