愛しい魔王様泣かないで!私はここにいます

第1章 魔王様と私-5

「ん……あれ?」 
 私、どうしたんだっけ。体が少し重い……。
「どうした。まだ眠っていてよいのだぞ」
 耳元から聞こえたのは、低くて夜に響き渡るような、それでいて、不思議と優しい……これって!
「あ……魔王様」
 そうだ……私、彼と――。
 もう、昨日までの私じゃないんだ。何もかも、変わってしまった。唇を噛む。どんな顔をしていいか分からなくて、寝返りを打って向こうを向きたいのに、抱きしめている手が許してくれない。
「俺が怖いか」
 その声に思わず顔を見ると、違うと言ってほしそうだった。私も、今すぐ彼に危害を加えられるとか、そういう意味で怖いわけではない。でも、この状況に、気持ちが追いついていかない。だからまた、同じことを答えた。
「よく、分かりません」
「今は、それでよい。眠れ」
 それどころじゃないと言いたい気分だけど、包む込むような声に促されて、目を閉じた。
「魔王様は、眠らないのですか?」
「お前を見ている」
 眠ってしまったらお話もできないのに、どうして?
 一緒に起きていたら、あなたが私を求めた理由を知ることができるかもしれないのに。
「私にあんなことをしたのは、なぜですか……?」
「その答えはお前の中にある。おやすみ」
「はい……」
 何もかも分からないまま、朝までぐっすり眠った。

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