愛しい魔王様泣かないで!私はここにいます

第1章 魔王様と私-6

 この魔界にも、朝日は差し込むらしい。ほのかな光を感じて、目を開けた。
「魔王様……?」
 いない。
 シーツの上には、私一人。泣きたいほどの心細さに囚われた。今まで、孤独を感じても、一人でいるのが嫌いなことなんてなかったのに。
 私の体は、柔らかくて清潔な、白いワンピースに包まれていた。何も着ていないような、素晴らしい着心地。
 きょろきょろしていると、彼が現れた。マントをはためかせ、世界を支配しているという自信を漂わせて。
「おはよう、我が妻よ」
「お、おはようございます」
 そうだ、花嫁って言われたんだっけ。全然実感がない。
 彼はベッドに腰かけ、私の肩に手を置いた。もう片方の手で、頬に触れてくる。
「気分はどうだ」
「普通、です。あの、混乱はまだしてますけど」
「体に痛みは? 無理をさせたからな」
「それは……少し怠いですけど、痛いところはありません」
「そうか」
 ホッとした顔を見せられると、文句が出てこなくなってしまう。
「何か言いたそうだな」
「当たり前です……でも、何から言えばいいのか」
「空腹なんじゃないか?」
「そういうわけじゃ……わっ」
 パチン、と彼が指を鳴らすと、果物やパン、お菓子を盛った器が現れた。ほかほかと湯気を立てて、香り高い、おいしそうなお茶も。
「足りなければもっと出す。いつでも言ってくれ」
「これは……奥さんを甘やかしすぎっていうか」
「ハハッ、それはいい」
 嬉しそうに笑うと、何だかかわいくて。明るくて、チャーミングな魔王様なのかもしれない。
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