「レモン½で食べよ!」

出会ってた


 私がこの高校に入学して来て、はじめて口を聞いた人は、実は戸田くんなのだ。

 寝坊がデフォで、ものすごく方向音痴の私には、この出来たばかりの学校の校舎は眩しすぎて、昇降口でぼんやりと吹き抜けになっている天井を見上げて立ち尽くしていた。
 何よりも広すぎて、ついでに遅刻までして、どうしたら良いかすらわからなかった。
 1年生の教室の棟は、まとまっていて、昇降口を入って左に進めばすぐに行きつくことが出来たと言うのに、地図も忘れて来ており、誰かに聞こうにも周囲にはもはや誰もいない。

 しょっぱなからこれか、と落ち込みかけていた私の制服の裾を、誰かが掴んで、おっとっと、と後ろに引っ張られた。

 まだ卒業生のいない学校で、今の3年生がこの学校初の入学者たち、と言う高校だった。
 1年生の制服のリボンは緑色だ。
 男子は、ネクタイが緑色。
 2年生は赤で、3年生は黄色。

 振り返ったら、緑色のネクタイをした、無口そうで仏頂面をした、私よりも少しばかり背の高い、男子にしては低い、そんな生徒が立っていた。
 彼は腕時計を確認すると、私の制服の裾から指を離して、敬語でこう言った。

< 13 / 17 >

この作品をシェア

pagetop