「レモン½で食べよ!」

 「喋りたいから…!戸田くんは、お腹すかないの?」
 「…今日は、弁当、持ってきてないんだね」
 「ダイエットしようと思って。夏休みに、プールとか海に行きたいから!水着、着るでしょう」
 「…本、読まないなら。出て行きなよ」
 「あ!うん、本!…持って来る、読む!読むよ!」

 すごい!
 今日は、戸田くん、いつもより私に話を振ってくれる。
 どうしたんだろう?
 機嫌がいいのかな?

 旧約聖書には、確か隣人を愛せと書いてはあったような記憶がある。
 え、すご。
 聖書の力、すご!!
 あ、図書室だった、声、小さくしなくちゃね。
 喜び過ぎて、はしゃいじゃうとこだったよ。

 私は静かに立ち上がって、本棚の方に向かう。
 別に読みたい本はなかったし、読む気もなかったし、適当に目についた本を手に取る。

 ローズマリ・サトクリフ作、の「運命の騎士」だった。
 表紙が気に入って、少しの間だけその場でページを開いて、何行かだけ、…と読み進めていたら、いつの間にか集中していたらしい。

 横に、戸田くんが立っていることに、全く気がつかなかった。

 「立って読むの、うちの学校の図書室は禁止だよ」
 「え!あ、戸田く、ん?…そ、そうなんだ。じゃあ、…隣に座って読んでもいい…?」
 「ぼ、…俺、これ、借りて、もう教室に戻るけど」
 「あはは!僕、でいいよ。なんで俺??私も、一緒に戻るよ」

 図書室の出口の方へ二人で並んで歩いていたら、少ない利用者の生徒たちの視線が何故か集まる。

 ここにやって来た時には何も思わなかったけれど、私が場違いである、と言われているような気がして居心地が悪くなってしまう。

 だからか。
 戸田くんは、私と並んで図書室の机に座っているのが目立つから、もうここを去ることにしたのだ。



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