「レモン½で食べよ!」
私たちは、授業と授業の間の短い休み時間には一つの机に集まって、雑誌なんかをひらいて、この服可愛い、この化粧品が欲しい、なんて騒いだりした。
ホノカからは彼氏との惚気話を聞いたり、相談話を聞いては、2人にはわからないだろうけどさ、なんて言われちゃったり、ルミからは、また告白された、とかなんとか、面倒そうに頬杖をつかれてしまったり。
たったの数ヶ月で2人ははまるで別人だなあ、と、ビーズに透明なテグス糸を通しながらのんきに相槌を打っていた。
それでも、見た目の種類で、一応仲良しグループのように周りからは扱われていた。
「香歩って、彼氏作らないの?」
「え?…彼氏?」
「あたしにもルミにもいるのに、香歩はいないじゃん。もしかして、…いたことない?」
「ちょっとホノカ、やめなよ…。でも、好きな人くらいはいるでしょ?」
「うーん、でも、好きになってもらえないって言うか。彼氏かあ。いたことなかったなあ」
「じゃあさ!高く売れるじゃん。土曜日、遊ばない?10時くらいに駅前でどう?」
「んっと、…香歩、やめておいた方がいいよ…。ホノカも、悪乗りしないで」
「何?何の話?」
「とりあえずどっちにしろ遊ぼ!カラオケとかにしてさ。嫌だったら、3人でバックレたらいいんだよ」
この時、私はホノカが、ルミと私と3人でカラオケに行く約束をまとめているのだと思ってしまった。
雑音があったり、会話の流れがはやすぎたりすると、耳から入った情報を正しい形で一時的に脳内にとどめる、と言うことが苦手だった。
物知らずだったし、キヨミ先輩とモエ先輩とお揃いで、ビーズのブレスレットを作っている最中でもあったので、そちらに集中していた。
私が自分で作って身に着けていたビーズアクセサリーを、可愛い!と褒めてくれて、自信をつけてくれたキヨミ先輩とモエ先輩に、喜んで欲しかったのだ。
夏休みに入る前には完成させないと、渡すタイミングを逃してしまう、と焦っていた。