「レモン½で食べよ!」
はじめは「近づかないで欲しい」と、丁寧な言葉で拒否られていたけれど、今はもう「こっちに来るな」「近づくな」と、軽口…うん、そうだ、軽口!
多少は、以前より親しみを感じるような言葉で、一応は「おまえの話なんて聞かないからな」と伝えてくる。
一番最初は、彼が読んでいた本を知っていたから、話しかけようとしたのだ。
私は、小学生の頃から本を読むことが好きだった。
中学生になって親からスマホを買い与えてもらってからは、web小説サイトの作品も読むようになったけれど、紙の本も変わらず購入し、読み続けていた。
あまり古い文豪には詳しくなかったけれど、中学生の頃に仲良くしてくれていた、もっとコアな小説好きな男子と、唯一語ることが出来たのが、その、戸田くんが読んでいた作品の著者が残した文字たちだった。
懐かしいな、と思って、軽い気持ちで「何が一番好き?」と声をかけると、パッと顔を上げ、一瞬だけ目が合った。
その僅か数秒だけは、確かに輝いた表情をしていたのだ。
けれど、私の姿を見るや否や、「あっちへ行って下さい」と、落胆したかのような声音で告げ、再び視線を本の世界に閉じ込めてしまった。