月に歌う
ホームを人波に合わせて足早に出口へと向かう。
改札を出たら、階段を上がって外に出て、隅の方へ寄ると壁に背中を預けてマフラーを鼻まで上げた。
新幹線の停まる駅前は絶えずこみ合っているけれど、そこから数駅先にあるこの町はもはや田舎だ。
私の乗ってきた電車が、いわゆる帰宅ラッシュと言うやつにあたるので、次からはそんなに人は降りてこない。
どうしようか、走ろうか。
間に合うだろうか、あの背中に。
きっと今日も、いつもと同じコンビニに寄っているはずだ。
週刊のマンガ雑誌の発売曜日だから。
後頭部の真ん中で一つに結んだ長い黒髪が、北から吹いた冷たい風によって頬を叩いた。
まるで、はやく行きなよ、と私を勇気づけてくれているようだ、なんて言ったらポジティブ過ぎるだろうか。
だって、どんな事象にすら頼りたいくらい、胸がぎゅっと切なくて、気ばかりが焦り、余裕がないのだ。
この時代に、手紙で気持ちを伝えようとレターセットに文字を綴るような、古風な女子高生など私以外にいるだろうか。