月に歌う
走り出した夕暮れの終わったばかりの空には、明るい月がのぼりはじめている。
帰り道の方向が同じだと言う偶然には、励ましてもらった日にお礼を言おうとあの背中を追いかけて、知った。
私もよく寄り道をするコンビニだった。
あの時は、脚がすくんでしまって、結局は彼を呼び止めることが出来なかった。
だって、声が聞こえないのだから、どのようにしたら良いのかわからなかったのだ。
今なら。
今なら。
今の、私だったなら。
ああ、いた、まだ、間に合った。
コンビニの自動ドアが開くと、今日まで見つめ続けた彼が、白いビニール袋を腕から下げて出てくるところだった。