月に歌う

 私は、彼の手のひらに、「てがみ、よんでください」と、人差し指で彼から向かって読みやすいように逆さまに書いた。
 目を見開く彼は、思っていたよりも童顔で、短い栗色の柔らかそうな髪質も相まって、まるで中学生くらいに見えた。

 まさかね?
 同じ地区にある、男子校の学ランだもの。

 ハラハラとしながら、手をひっこめられてしまう前に、「すきです」「てがみをよんで、もしOKだったならば、つきあってください」と書いて、やっとで止めていた息を吐いた。

 かなり猛ダッシュして来たから、本当は苦しかったのだけれど、ムードを優先させたかった。
 ああ、また、台無しだ。
 肩でぜいぜいと呼吸を整え、うつむいたまんまで、ぎこちない、だけど何百回も練習をした、手話を披露する。

 『わ た し は 瑞希、と い い ま す』

 今度は、大きく息を吐いて、顔をあげる。
 緊張する。
 ドキドキする。
 なんて、綺麗な目なの。
 私を、見てる。

 『お な ま え は ?』

 コンビニの灯りよりも、月明かりが眩しい。
 彼のことを照らす、ステージの証明のよう。
 私は、脇役のまま、消えてしまうのかな。



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