わんこな後輩くんに懐かれました!
小田(おだ)先輩!」

退勤をすませて会社を出ると、後ろから声をかけられた。
振り返ると後輩の片桐浩太(かたぎりこうた)くんが、駆け寄ってくる。

5階にあるオフィスを後にしてエレベーターに乗り込もうとしたときだ。

「片桐くん、お疲れ様」
「お疲れ様です!」

すでにエレベーターには男性が2人乗っていて、私と片桐くんも静かに乗り込む。
エレベーターが一階に着くまで、じわじわと人が乗り込んできて片桐くんに今まで経験がないくらいくっついてしまった。

片桐くんはどこか幼さが残る可愛い後輩である。
20代半ばを過ぎても、いまだ大学生に間違われることもあるそうだ。

30代を目前にした女子としては、若く見られるのは羨ましいようにも思うけれど、片桐くんに言わせれば『大人の男になりたいし、そう見られたい』とのことだった。

思わず頭を撫でたくなるような、わんこみたいな存在でありながら、彼は入社した当時も今もとても仕事が出来るタイプで人間関係も良好に保ち、会社には欠かせない存在となっている。
彼に任せられる仕事も大きくなっていく一方で、片桐くんにとって私が先輩というポジションであるのも、先に入社していたことだとか歳が上だとかそういったささやかなステータスだけでのことになったと思う。

エレベーターが一階に着くと、降りたところで片桐くんにお別れ代わりに手を振ろうとした。
その手がきゅっと片桐くんの大きな手に捕まる。
驚く私以上に、片桐くん本人が動揺をみせて「あっ……」と零した。
そして手をそっと離す。
一呼吸置いてから、片桐くんは静かにゆっくりと口を開いた。

「小田先輩、今日これからって空いてますか?」
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