わんこな後輩くんに懐かれました!
「片桐くんはなんだか不満そうに見えるけど?」

私がからかうようにそう言って笑うと、「楽しかったです」と彼は名残惜しそうに感想を口にした。
お開きの時を察して、さっきまでふりふりしてるように見えていた片桐くんの尻尾は今はまるで元気がなく見えるようだった。

会計を済ませて店の外に出ると、夜風が頬を撫でていく。
夜道で肩を並べて最寄駅まで歩くにも、片桐くんはどこかぼんやりと考え事でもしてるかのように口数が少ない。
そんな片桐くんが「あの」と切り出して歩みを止める。

「小田先輩、ひとつだけ……訊いてもいいですか?」
「うん?」
「好きな人とか、恋人とかいますか?」
「そんなこと気になるの?」

びっくりして聞き返すと、びっくりされ返されて思わず二人でキョトンとしてしまう。

「気になります」

片桐くんは私の手を取ってぎゅっと握った。
そして掴んだ私の手を引き物陰に隠れるようにして私を抱きしめる。
片桐くんを異性として意識しないようにしていたつもりだったのに、そんな心掛けも吹き飛ばされてしまうようだった。
大事に抱きしめられて、耳元に片桐くんの吐息がかかる。

「でも、もし好きな人や恋人がいても、譲りたくないくらい俺は小田先輩が好きです」
< 4 / 5 >

この作品をシェア

pagetop