魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「すまんな。ここいらの民は、俺のことを珍しい生き物かなにかと勘違いしている。声が聴ければ、その日一日はなにかいいことが起きるのだと信じてるやつらまでいるという始末だ……はぁ」

 表情はいつもとあまり変わらないが、やれやれといった声音で眉間を解すディクリド様。先ほどもそうだったけれど、最初王都と出会った時とはかけ離れた一面を見て、私はお腹の底から湧き上がってくる感情を抑え切れずに、つい……。

「ぷっ……」

 唇から息を吹き出す。その後も喉がくつくつとひとりでに鳴り、抑えがたい衝動に身を任せた。

「笑ったな」
「ご、ごめんなさい……」

 彼に言われて気付いた。私は今、心から愉快な気持ちで笑えていた。こんなこと、最後にいつあっただろう。
 驚きに打たれながらディクリド様の方を見ると――彼も笑っている。

「なるほど。そういう顔で笑うのか、お前は。それを見れただけでも連れ出した甲斐はあったな」
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