魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 目を細め、男らしく歯を見せたその素直な笑顔はまるで別人のようで……私の方こそ特別なものを目にした気になって、彼の笑顔に魅入ってしまう。

 同じ場所にいて同じ感情を抱き、それを取り交わすことがこんなにも嬉しいことだなんて……。ある種の感動を胸に、私は彼を見上げながらぼうっとしていて――。

「遅いよ兄ちゃん、領主様が来てるから見に行こうっていったのそっちだろ! へへへ、先に行っちゃうよ」
「おい待てってば、ちゃんと前を――!」
「きゃぁっ!」

 そのせいで前も見ないまま街角を丁度曲がったところで、はしゃぎながら駆けてきた兄弟の片割れとぶつかりそうになり。

「おっと」

 すんでのところでディクリド様が子供を(すく)い上げ、事なきを得た。彼はその体を真上に担ぎ上げ、じろっと目を合わす。

「どうだ? 俺がその領主様とやらだが、よく見えるか?」
「ひぇっ! ごめんなさい!」
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