魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 ディクリド様は手足をばたつかせ始めた少年を、怪我しないようにゆっくりと下ろしてやる。すると兄弟は慌てて退散していき、路地の壁に隠れたまま、おどおどとこちらに視線をくれた。

「昔から、子供には怖がられるばかりでな。寂しいものだ」

 それこそいじけた少年のような口ぶりで、今度は眉を寄せ、つまらなそうにその場から動き出す彼。その姿があんまりいたたまれなくて、私は少年たちの方へと駆けていくと訂正する。

「な、なんだよっ」
「あ、あの……あなたたち。ディクリド様は、子供に暴力を振るうような人じゃありませんよ」

 少し咎めるような口ぶりになってしまった私に対し、少年たちも意地を張って口を尖らせる。

「べ、別に……怖がってるわけじゃないし。尊敬っていうか……」
「そ、そうだよ。おいらたちも、大きくなったら領主様みたいに、戦って皆を守るんだ」

 そうすると怖さが紛れたのか、子供たちは今度は逃げずにゆっくりと歩み寄って来る自分の街の領主を待ち受け……ディクリド様はしゃがみ込むと、その大きな掌で兄弟の手を片方ずつ包んだ。
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