魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「これは……いったい?」
「察しの悪い……。お前の嫁ぎ先が決まったということだ。それもなんと相手は侯爵家の当主だ。もちろんお前がひとり目の妻というわけではないがな」

 私たちの住まうノルシェーリア王国では、侯爵位以上の上級貴族に限って、ひとりの夫に付き五人までの妻が認められる。つまりそのひとりとして私が選ばれたということなのだろう。

「くくく、これも儂の先見の明あったればこそよ。此度の婚姻を結べば、当家の名声はさらに広く知れ渡ることとなろう。卑しい下女の娘なぞを世話してやったかいがあったというものだ。はは、はははははは……!」

 実の血を分けた娘の前で吐く台詞とは思えず、私はひどく胸を抑える。激しい動悸と眩暈に襲われたが、もう一刻も早くここを立ち去りたくて、懸命に追従の笑顔を浮かべる。

「それは……まことに光栄なことでございます。では……書類に署名を」
「ふふふ。嫁ぎ先のグローバス侯爵家の当主はもう六十近くにもなるらしいが、若い娘をご所望だ。お前などでも可愛がってもらえるかもしれんな。よかったではないか……。実は、興味のなくなった娘は不審死を装って死なせられ、新しい妻と取り換えられるという噂があるがな」
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