魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 オルジと呼ばれた老爺の眼光が鋭くこちらを射抜いた。だが彼はなにも言わず、カウンターの裏に置いていた私の身幅ほどもありそうな分厚い大剣を台の上に置くと、奥の建物から、あるものを持ちだして来た。

「あ……!」

 その時の私の驚愕は表現しがたいものがあった。
金具で留められていたフラップが外され、見覚えのある皮鞄の中から老人の手で、かちゃかちゃと音を立て次々と工具が取り出され、並べられてゆく。

 それらは紛れもなく……私が命を断とうとした際に、身に着けていたあの道具袋だった。この身以外で、ファークラーテン家に私が籍を置いていた唯一の証左となるもの。私はそれがとっくに水底に沈んで二度と姿を表さないものだと思っていたのに……。

(どうして……)

 私はつい咎めるような視線でディクリド様の方を見てしまった。彼の行動が理解できず、裏切られたかのような疑念と悲しみが、胸に突き刺さる。

 だが、ディクリド様は、鋼のように硬い表情を変えぬまま、私にありのままの事実を告げた。
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