魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 なにを言っているのかと目を見開く私。これにはオルジさんも渋い顔になった。

「おやおや、人がせっかく苦心して直したものを……鍛冶師の苦労をまるで分かっておりませんな。……と文句をつけたいところではありますが、なにか訳ありのようじゃ。老い先短い老人は口を挟まず黙っていましょう」

 ふたりの視線が私の選択に注目する。

「あ……ぅ」

 私はじりっと後ずさった。
 長い間……それこそ十年近く使い続けたその道具たちには、私の血と汗が呪いのように沁みついている。あれを握れば自然と昔のことを思い出すだろう。あのファークラーテン家で暮らしていた頃の日々を……。

「ううっ……」

 あの家でいた時の大半は苦痛に塗れて過ごした。誰もが私を同じ人ではなく、意思を持たない、命令を聞くだけの道具として扱った。あの頃にはどうしても戻りたくない。
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