魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
ここで、この道具たちを捨ててしまえば、きっと私は生涯二度と魔導具に触れず済むだろう。このハーメルシーズ領で、ひとりの領民として、過去あったことはすべて忘れて暮らしていける……きっと。
――壊してください。
その一言だけでよいはずだ。そうすればきっと、ディクリド様はこの道具を叩き折り、ただの金くずに戻してくれるはずだ。たくさんの忌まわしい記憶を道連れにして……。
なのに、どうしてもその一言が出てこない。
いつの間にか私は、どうしたらいいのかわからなくなっていた。身体は汗で濡れ、視界はぼやけて、息が苦しい。
「お嬢さんや」
オルジさんが、カウンターから回り込んでこちら側に来ると、私の手を取って、ぼんやりとした視界に映るよう掲げさせた。
「お主の目には、二度と道具を握らぬという覚悟が宿っているように見えるが、本当にそれでいいのかの? 横から口を挟んで申し訳ないが……主の手は、長い長い忍耐と努力の末、ものを作るために形作られた手に思える。このような身を削る努力をしてまで作り上げた尊い成果を手放すなど――」
――壊してください。
その一言だけでよいはずだ。そうすればきっと、ディクリド様はこの道具を叩き折り、ただの金くずに戻してくれるはずだ。たくさんの忌まわしい記憶を道連れにして……。
なのに、どうしてもその一言が出てこない。
いつの間にか私は、どうしたらいいのかわからなくなっていた。身体は汗で濡れ、視界はぼやけて、息が苦しい。
「お嬢さんや」
オルジさんが、カウンターから回り込んでこちら側に来ると、私の手を取って、ぼんやりとした視界に映るよう掲げさせた。
「お主の目には、二度と道具を握らぬという覚悟が宿っているように見えるが、本当にそれでいいのかの? 横から口を挟んで申し訳ないが……主の手は、長い長い忍耐と努力の末、ものを作るために形作られた手に思える。このような身を削る努力をしてまで作り上げた尊い成果を手放すなど――」