魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「オルジ!」
「む……」 
「それ以上は無用だ。どうするかは、あくまでこの娘に決めさせねばならん」

 ディクリド様は一喝してオルジさんを下がらせると、私に静かに思いを語る。

「あるいは俺が、そんなものは捨ててしまえと命じれば、受けた恩義を盾にしてお前は苦しみもなくこれを手放せるのかも知れん。だが、それではいつか必ず悔いを残そう。これまでの人生の大半を占めてきた物事の結末をここで誰かに委ねるならば、この先お前は重要な選択にあたった時、自らの意志を持って決断することは二度とできまい。それで、いいのか?」

 ――いいわけがなかった。

 私は辛いことから逃げ出した人間だ。でもディクリド様は、弱い私の苦しみを理解した上で、私の中にも本当は強さはあるのだと……この地でならば変われるのだと信じて背中を押してくれた。それをここで彼に決断を任せ、重荷を背負わせるなら……きっとそれは自分を含めたいろんな人たちへの裏切りに他ならない。

 私は歯を食いしばり、自分の心に問いかけた。ここまであの道具たちの廃棄を躊躇うのは、この胸の中にずっと押し殺して来たひとつの感情があるからだ。
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