魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「ゆくぞ!」

 ディクリド様の気合に空気が張り詰めた。刃がぶれ、宙に四分円の軌跡を描くところが時を縮めたように瞳に映され……。

「――やめてぇぇぇっ!」

 気が付けば、私は身体を思い切り前に投げだしていた。
 その手が柔らかな皮と鉄を感じた瞬間、私はそれを懸命に抱え込むようにして守った。
 風が頭の上をふわっと撫で、刃が体を断つ寸前で止まったことを知らせる。

 私の頬に雫が伝ってゆく……。

「……うっ……うっ……」

 どうして、私はすべてを捨ててしまえなかったのか……。
 私はぐちゃぐちゃの感情を涙に変えることで解放し、困惑する胸中を整理しようとした。

「後悔は……しないか?」
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