魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 そのまま背中を丸めて嗚咽を漏らしていると、剣を鞘に納める音がして気遣わしい声が響く。涙を拭いそちらに目を向ければ、ディクリド様が済まなそうな顔でこちらを見ている。
 自分でも信じられなかった。ずっと自らを痛めつけるようにして関わってきた魔導具製作という行為に、この命を投げ出すほど未練を抱えていたなんて……。

 でも、もう私の手は再びこれを手にしてしまった。血肉に刻まれた苦しみと同時に幼き日の希望を――これこそが、私のやるべきことだと確信を抱いてしまった。

 私は息を整えた後、ディクリド様に向き合うと答える。

「……わかりません。でも……失いたくなかった。私の心がこれを手放さないことを選んだんです」

 私は袋の中から道具の一本を取り出した。
 なんの変哲のないねじ回しに過ぎなくとも、それは私が手に握った瞬間ぴたりと吸い付くように収まる。最初からこれに私の手が合っていたわけではなく、きっと、この道具に合うように少しずつ体が成長していったのだ。

 私はそれをそれらをひとつひとつ戻すと、鞄ごと抱き締めた。
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