魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
父が肩に置いた手に怖気が立ち、吐き気がこみあげた。ある程度年齢の離れた婚姻は貴族間では珍しいことではないのかもしれないけれど……。名も知らぬ老人に身体を求められ、不要になれば処分される。そんな事実、せめて実際にその人と会うまで知りたくはなかった。
私の持ったペン先が素直に動かず、書類にかぎ裂きのような弧を描く。
指が震え、手のひらに冷えた汗が滲む。
「なんだ? 待遇のありがたさに震えて自分の名前も書けんか? 仕方がない、儂が手を貸してやろう」
しかし残酷にも、父は私の手を握りしめ、強引に署名を一文字一文字を書き連ねた。私に自由意志など必要ないのだと言い聞かせるかのように……。
そして歪でおぞましい署名は、ついに完成してしまう。
父はべったりと汗で貼りついた私の手から書類を剥がすと、大事そうに封筒に仕舞い、今までで一番優しい笑顔で言った。
「ご苦労だったな、サンジュ。この家でのお前の役目は終わった。せいぜい向こうの家でも、ファークラーテンの名を穢さぬよう、グローバス侯爵に尽くすがよいぞ」
「…………はい」
私の持ったペン先が素直に動かず、書類にかぎ裂きのような弧を描く。
指が震え、手のひらに冷えた汗が滲む。
「なんだ? 待遇のありがたさに震えて自分の名前も書けんか? 仕方がない、儂が手を貸してやろう」
しかし残酷にも、父は私の手を握りしめ、強引に署名を一文字一文字を書き連ねた。私に自由意志など必要ないのだと言い聞かせるかのように……。
そして歪でおぞましい署名は、ついに完成してしまう。
父はべったりと汗で貼りついた私の手から書類を剥がすと、大事そうに封筒に仕舞い、今までで一番優しい笑顔で言った。
「ご苦労だったな、サンジュ。この家でのお前の役目は終わった。せいぜい向こうの家でも、ファークラーテンの名を穢さぬよう、グローバス侯爵に尽くすがよいぞ」
「…………はい」