魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「これから、辛いことを思い出すこともあるでしょう。けれど……私にはやっぱり、これしかない。魔導具師として、この道具でいつかたくさんの人に幸せを届ける。それが、私の目指すべきところなんだと、そう思いました」
「そうか……それが、お前にとっての誇りなのだな」

 そこで気力を失った私の身体が傾き、ディクリド様の腕が私を支えた。彼はそのまま、その大きな体で私と包み込んでくれる。
 しばし心地よい温もりに癒された後、私はお礼を言うと自分の両足を踏ん張り、力を入れ直す。目標が定まったなら、前に進まないとならない。

「これから、魔導具師として活動をするのか?」

 ディクリド様のそんな質問に、私は頭を悩ませた。

「できればそうしたいです。でも、魔石や材料の準備、活動の拠点となるお店……必要なものを準備するにはどれだけかかるか」

 兄たちの仕事を振られていたおかげで、魔導具店の経営の知識はそれなりにあるけれど、問題は元手となるお金だ。お城の下働きである程度の給金は支払われるが、それを貯めていくにしても、どれくらいの期間になるか見当がつかない。
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