魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 それでももう、やるともう決めたのだ……いつか自由にこの道具たちを振るえる日がまた来るまで、少しずつ努力していくしかない。

「ならば、私も一枚噛ませてもらいましょうかな」

 成り行きを見守っていたオルジさんが、白いあごひげを撫でながら山と積まれた魔石を指差す。

「この魔石を譲って差し上げよう。これらは中央に持って行けばそれなりの値段で売れるが、輸送するにも手間と費用がかかるのでな。本当はここいらで使ってもらうのが一番いいんじゃ。若い職人が新しいことに挑戦しようというのなら、先達として力を貸さないわけにもいくまい。他にも金属関係のことには相談に乗れると思いますしな」
「あ、ありがとうございます! で、でも……」

 オルジさんの申し出は大変ありがたい。もしそうしてもらえるなら魔導具の製作に関する障害のいくつかは乗り越えられる。だが最後にひとつだけ、避けては通れない問題がある。

「私がこの地にて、魔導具師として働くことを許していただくにはどうすればいいでしょうか、ディクリド様……」

 私はディクリド様に大きな恩がある。彼に命を助けられた身だというのに、その借りを返すことを後回しにして自分の希望を叶えようというのは、いささか虫がよすぎるだろう。それに私自身も、こうしてここまで導いてくれたこの人に、なにかを返したいという気持ちは強い。
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