魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 どのような答えであれど甘んじて受け入れるつもりだった私に、彼は苦々しい声で告げる。

「俺は魔術が嫌いだ」

 そんな告白に続く話が、前向きになっていた私の心に冷たい棘を差し込んだ。

「俺は母親を魔術のせいで失った。そのこともあって、この身に魔術を宿しながらもそれらに不信を抱き、今まで積極的に関わろうとはしなかった。どんな利があろうと、人の手に余る力は時に大きな悲劇を生む。それを俺は、この身をもって知ったからな」

 肉親をどのような形で亡くしたのかは分からないが、その瞳の翳りようは当時彼がどれほど苦しみ抜いたのかをありありと想像させた。

「だが……魔術に大きく成り代わる魔導具が生まれ、誰であろうと魔術の恩恵に預かれる時代がこようとしている。なのに、俺は個人的な恨みを理由にして、あえてこのハーメルシーズ領から、魔術に類するものを取り除こうとしていた」

 倉庫から魔導具を処分しようとしていたのは、戦が始まりその準備に追われているからというだけではなく、個人的な感傷も理由に含まれていたのだと、彼は言う。
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