魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「サンジュ、お前に聞きたい」 

 店にあった魔石のひとつを掴み上げ、握りしめると彼は私にそれを突き付けた。

「魔導具は、魔術の力は俺たちに幸せをもたらしてくれるのだろうか?」

 それは、縋るような痛切な問いかけだった。

 実のところ私も、未来の展望などわからない。魔導具の力によりこの国は大きく発展することは間違いないように思えるけれど、一方でディクリド様の持つ危惧もまた確かで、なにかの拍子に国が傾くということもあり得るのかも知れない。
 でも、この人も私と同じなのだ。過去あった悲しい出来事に囚われながら、自分だけでは抜け出しきれない泥沼の中で、ずっと苦しんでいる。

 きっと彼もそれがあったから私に手を差し伸べてくれた。ならば私も彼に報いたい。辛いことを乗り越える力になりたい。

「魔導具は……魔術の力は確かに便利で強力な、一歩誤れば途方もない悲劇を生み出してしまうような力かもしれない。けれど、それもまた使う人次第だと思うんです。もし私に、魔導具づくりを許してもらえるなら、そうならない方法を探します……! 誰かが誤った使い方を覚えないように、何度だって丁寧に説明しますし……ディクリド様にも正しく扱えるかちゃんと相談します。だからお願いします」
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