魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「屋敷の者めらはどいつもこいつも、なぜあやつが出て行く時引き留めなかった! 職務怠慢にも程がある……!」

 ウドニスは苛立ち紛れに机の書類を床にぶちまけ、息子たちの工房で作ったランプ型の魔導具を弾き飛ばし、床に散ったガラスの破片を踏みにじった。
 そうしてひとしきり怒りを発散すると、荒い息を吐きながら執務室の椅子に身体を沈め、両腕に顎を乗せる。

「くそっ、サンジュ……愚かな娘が。肝心な時にいなくなりおるとは、育ててやった恩も忘れたか! ソエル、ザド……お前たちはやつの行き先に心当たりはないか?」

 その質問にまず、長兄のソエルが即答する。

「私は知りませんね。あの出来損ないの娘が日頃どうしているかに気を配るなど、時間の無駄だと思っていましたので」
「俺もですよ。俺たちが忙しいのは父上だってご存知でしょう。あんなぱっとしないやつにわざわざ構ってやる理由なんてこれっぽっちもありませんよ」

 自分たちもサンジュを散々利用し追い詰めておきながら、知らないふりをする兄弟。
 だが、サンジュがひとりで出奔したことに納得がいかないウドニスは、彼らを鋭く問い詰める。
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