魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 ソエルの店を訪れる時もサンジュが携えていた、古い皮の道具鞄だけが、どこを探しても見つからない。
 あの時、ソエルから見てもサンジュはひどい精神状態だった。衝動的にいつもの癖で、それを手にして街を出て、何者かに拉致された? 

あるいは……本当に世を儚み、命を断ってしまったのか?
主のいなくなった椅子に腰かけると、彼はじっと考えごとをしながら独り言をこぼす。

「サンジュ……どこへ行った? もう少しで、すべてがうまくいったというのに……」

 そうしていると窓の外から入り込む日差しがだんだんと針のように細く尖り、立ち消えてしまう。
 だが、室内が完全に暗闇に染まり、その姿を隠してしまっても……彼はその腰を上げることはなかった。
< 132 / 217 >

この作品をシェア

pagetop