魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)


 フィトロさんもディクリド様の側近として暇ではないらしく、いくつかの役場などで所用をこなした後、私たちを連れて目的地へと向かう。

「いったいなんの用事なんです?」
「それは……ねぇ?」
「行ってみてのお楽しみというやつですよ」

 リラフェンとたまに行くようになった雑貨店や菓子店なども通り過ぎ……いつもながら賑々しい、東西に抜ける大きな通りを抜けて街の北西側へ。この辺りは最近よくお世話になる、オルジさんの鍛冶店があるあたりだ。そちらを訪ねるのかと予想したのに、ふたりは脇道に逸れると、そこも行き過ぎていく。


(いったいどこへ……?)

 訪ねたことのない区画に差し掛かり、私はどこか浮き立った様子のふたりに続きながら訝しんだ。例えばなんらかのお祝いで、ディクリド様に不意打ち(サプライズ)の贈り物を用意したりというわけでもないみたいだし、最近部屋に篭りきりの私を、気晴らしにで催し事に連れて来てくれたというわけでもない。

 妄想を膨らませる内に、やがて私たちは、北西区画の隅にある一軒の建物に行き当たった。
 他とは少しばかり距離を離した、ちょっとした丘の上に佇むこじんまりとした家屋だ。真っ白な石灰が塗られた円筒形の壁に、円錐形のとがった赤屋根が乗っかったその姿は、なんとなく芸術家が住まうアトリエを彷彿とさせる。
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