魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 自然と頭が上に向き、気持ちよく屋根まで吹き抜けた天井をしばし眺める。

「こ、ここが……私のお店ですって? で、でも……私、なんのお金も……」
「大丈夫ですよ」

 フィトロさんが差し出してくれた手を支えになんとか立ち上がるが、いくら周りをきょろきょろと見渡したって、実感は微塵も湧いてこない。

 だってとても素敵なのだ……。
お屋敷というほどではないけれど、人ひとりが住まうにはずいぶん広く、そして三階建て。これなら一階を店舗や物置にし、二階を居住スペースにしたって十分お釣りが来るだろう。明るくナチュラルな木目の室内は、どんなインテリアにも調和してくれそう。

 いやいやそうではない……なにが大丈夫だというのか。
 購入にしろ、賃貸にしろ、こんな建物と引き換えにする財貨は私は持ち合わせていない。数年かけてこつこつお金を貯めた上で、もっと安い物件を借りるつもりだったのに。

 残念ながら、いくら条件がよかろうと、この建物は私には釣り合わない。
 そう伝えようとした時、ようやくそこで、フィトロさんがネタばらしをしてくれた。
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