魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「だってリラフェン、あなたはもう数年も勤め上げれば上級侍女としてお声がかかるかもしれないって……そういう話を受けたって言っていたじゃないですか! そうなればお給金も今よりもずっとよくなるし、仕事は嫌いじゃないって言ってたのに!」
「別にいいじゃない、あの仕事は誰にだってできることだし……決して伯に強制されたとかじゃないわ。あたしが自分で決めたの」

 彼女は狼狽する私の言葉を跳ね除けた上、逆に人差し指をこちらの鼻先に突きつけてくる。

「それに言わせてもらうけど……お店の営業についての知識があるとして、あんた、人付き合いってあんまし得意じゃないわよね? そんな人がいきなりお客さんのご機嫌取ったり、商品の説明とかこなせると本気で思う? 品の入れ替え、店の掃除、態度の悪い客への対応、仕事なんて他に山ほどあるのよ? 魔導具を作ってばっかじゃ成り立たないんだから。その辺りちゃんとわかってんの!?」
「ううっ……」

 確かに、その辺りの計画はおざなりだったから、仮にこの状態でお店を開こうと、私ひとりではどうにもならなかっただろう。誰か人を雇うにしても、先行きの定かではないこんなお店で働いてくれる人が居るかわからないし、信頼できる人を探すのはとても大変なことだ。
 言われれば言われるほど、彼女が一緒に手伝ってくれるありがたみが身に染みる。

「ってことで、近日中にあたしもここに移るからよろしく」
「お好きにどうぞ……」
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