魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)


 それから数日をかけて、代わる代わる私たちは、フィトロさんから紹介を受けたファルメルの街の要所を周っていった。

 大変な思いをして、貧しい人々のために井戸から飲み水を汲み上げていたシスターに水無限のピッチャーを差し上げたり……忙しい酒場の店主の竈を、仄火のロッドで手早く付けてみせたり……お屋敷の雑草で困っていた庭師のお爺さんに、風裂のサイスの切れ味を披露し腰を抜かさせてしまったり……。色んな場所にて無償でその効果を試してもらった。

 中には話を聞かずに追い払うような人もいたけど、こちらがきちんと説明すれば、大半の人は理解を示し、知り合いに紹介してくれた人もいた。

 そうして……“辺境伯の御用達”の開店日から一週間後。

「――み、皆さん、押さないでくださーいっ!」
「この、“地割のフース”ってやつを三つくれ!」
「私はこれ、“水無限のピッチャー”と “仄火のロッド”をちょうだい!」
「ちょっと待って、一種類につきひとりひとつずつだってば! 使い方の説明もしてるから、順番を守って大人しく並んでよー!」

 少しずつだが客足は増え、当店は現在大盛況。
 店内から外へずらっと列が並び、私たちは半ば悲鳴を出しながら、雪崩れ込んでくるお客様たちを捌いている。
< 171 / 485 >

この作品をシェア

pagetop