魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 もはや品物を丁寧に包む暇もない。魔導具の扱い方の説明だけはちゃんとして、くれぐれも事故を起こさないように言い含め、速やかにご退店いただく。

 瞬く間に、店内の商品が消えていく様は見ていて壮観。百個以上も用意していた在庫が、お昼にもなっていないのにもう残り三分の一もない。人気のあるピッチャーなんかは、すでに完売している。

「いや~、ここまでの売れ行きになるだなんて、僕も予想できなかったな。これも、君たちが街の人々に受け入れられた証だね」
「のんきに笑ってる暇があったら、お義兄様も手伝ってよ! 奥の倉庫から予備の魔導具を持って来るのっ!」
「はいはい、仰せの通りに」

 楽しそうに笑いながらフィトロさんは倉庫の中に消えていく。
 この様子だと、今日中に品物はすべてなくなり、明日からはまた作業部屋に篭って魔導具づくりに勤しまないとならなさそうだ。

(でも、こんなにもたくさんの人が……私の魔導具を求めて来てくれた)

 まったく世の中、つねづね想定通りにはいかないけれど……目の前の多くの人々が、私の作った魔導具を嬉しそうに持ち帰る姿を見れば、そんな大変さも全然苦にならない。
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