魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 かくなる上は、しっかりと目にもの見せてやり、二度とこの国を攻める気にならないよう、痛い目を見て帰ってもらうしかない。

(兵の士気も問題だし、糧食を揃える費用も馬鹿にならん。国の支援をどれだけ引き出せるかだな……)

 こんなことならば、前回の戦を引き延ばして王国からの補給物資を溜め込み、二度目の戦に備えておくべきだったかもしれないとも思ったが、ディクリドはその考えに首を振った。各々の兵士にも家族がいる。彼らが戦争に関わる期間を延ばせば延ばすほど、家族は不安と恐怖に駆られる長い日々を耐えねばならなくなる。

 それは領地の民たちの心に暗い陰を落とすだろう。この厳しい地でできるだけ健やかに暮らしてもらうためにも、戦で無用な負担を民には与えたくない。夏ごろに行った小麦の収穫など、今年の農業生産も好調で、ハーメルシーズ領の全体の暮らし向きにはずいぶん余裕がある。戦術的にそう言った行動が必須になる段階では、まだないはずだ。

(なるべく早く、決着を着ける……!)

 今回の戦の規模では、ディクリド自身も陣頭に出て、部隊を指揮せざるを得ないだろう。ディクリドは自分のしぶとさには自信があるが、若くして戦で命を散らせた父親しかり……どんな強者でも死ぬときは死ぬ。
 時には領全体の利益と自分の命を天秤に掛けねばならない境遇に辟易しつつ、ディクリドは今回、ご利益をくれるなら誰でもよい、取りあえず戦場から無事に帰してくれと、この国に数多いる神々に祈っておいた。
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