魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 街にのさばる悪党どもにそこを襲われたのだ。仮宿は無残に打ち壊され、殴って気絶させられた子供たちは、縛りあげられて、どこかの牢屋に閉じ込められた。数日ごとに仲間は泣き叫びながら連れ出され、二度と戻って来ることはなく……牢番の男の話では、人買いに引き渡され、奴隷として売られてしまったのだとか……。

 最後に残ったフィトロさんとリラフェンは、毎夜抱き合って震えながら、いずれ来る別れに泣き腫らす日々を送った。
 しかしかろうじて、そこで救いの手が差し伸べられた。街に視察に来ていたディクリド様が、配下からの報告を受け、兵を率いて怪しげな組織を壊滅させたのだ。そしてこの領地に蔓延(はびこ)(うみ)は、自分たちの責任だと言って謝罪し、兄弟に手を差し伸べた。そうして、ふたりは新しい姓を彼からいただき、ハーメルシーズ城で預かられることになった……。



 それから――ふたりの間にどんな時間が過ごされたのか、私は知らない。

(リラフェンにとって、ディクリド様がふたりを厳しい環境から救い上げた恩人だとして……。ならばフィトロさんは、それまでの幼かった自分共に苦楽を分かち合った、半身とも言えるような大切な存在であるはずなのに。それをあんな風に拒絶しなくてはならないなんて……)

 私にとって、リラフェンこそがこの城に馴染むきっかけをつくってくれた恩人である。
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