魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 終始前向きな彼女がいなかったら、私は未だ誰かのいいなりのまま漫然と日々を過ごし、こうして過去の自分と向き合い人生を変える努力をすることもなかっただろう。

 一番大切な友達……だから、できることなら彼女に以前の笑顔を取り戻させてあげたい。

 お城の大門が目の前に迫る。
 久々に潜るその巨大さを前に緊張を覚えながら、私は必ず、なにかの手掛かりを掴んで帰るのだと胸に決め、それを潜った。
 馬車が停車し、身元を確かめられた後……私はまず、女使用人たちの住まう館に向かった。リラフェンがこの城に戻ったならば、必ず最初に顔馴染みの彼女たちに挨拶するだろうと思ったから。

「あら、珍しい顔じゃない。おかえり、サンジュ」
「ベラさん……! ご、ご無沙汰してます」

 ここを去ってはや数か月。扉に手を掛けるのを躊躇していた私に、丁度内側から扉を開けて出くわしたベラさんはいつも通りの気安さで私に話しかけてくれた。

 彼女はリラフェンがいなくなった後も、ここのまとめ役として下働きの女性たちをしっかり支え続けているらしい。
 柔らかい栗色のおくれ毛をかき上げながら、彼女は微笑み、私を館の中に招く。
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