魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「その様子だと元気にはしてるみたいね。ねっ、中でお茶でも飲んでいかない?」
「で、でも、仕事のご迷惑になってしまいませんか?」
「使用人はたくさんいるんだし、私が抜けたくらいじゃなにも変わんないわ。それよりせっかくのお客さんをもてなさない方が罰が当たるってものよ。さぁ、入った入った」
彼女に背中をどんと押され、私は久々にこの館の敷居をまたぐ。
隅々まで手入れの行き届いた空間の居心地の良さは、去る前と変わらない。陶器の花瓶に詰められた、バラやキンモクセイ、クレマチスなどといった季節の花々が安らぎを振りまいている。
今は出払っているようで誰もいないが、いつも誰かしら集まって笑い声の絶えないリビングに腰を落とし、ベラさんが手ずから淹れてくれたお茶を啜ると、わずかに心が落ち着いた。
不思議だ。たった数か月しか居なかったのに、懐かしいという感覚が私の中に確かに生まれている……。なんというのだろう、どこか寂しく、体の力が抜けて自分が萎んでしまったかのような、懐旧の情が私の胸をいっぱいにする。
空っぽになったティーカップに新しいお茶を注いでくれながら、ベラさんはまるで遠い存在になってしまったかのように私を見た。
「で、でも、仕事のご迷惑になってしまいませんか?」
「使用人はたくさんいるんだし、私が抜けたくらいじゃなにも変わんないわ。それよりせっかくのお客さんをもてなさない方が罰が当たるってものよ。さぁ、入った入った」
彼女に背中をどんと押され、私は久々にこの館の敷居をまたぐ。
隅々まで手入れの行き届いた空間の居心地の良さは、去る前と変わらない。陶器の花瓶に詰められた、バラやキンモクセイ、クレマチスなどといった季節の花々が安らぎを振りまいている。
今は出払っているようで誰もいないが、いつも誰かしら集まって笑い声の絶えないリビングに腰を落とし、ベラさんが手ずから淹れてくれたお茶を啜ると、わずかに心が落ち着いた。
不思議だ。たった数か月しか居なかったのに、懐かしいという感覚が私の中に確かに生まれている……。なんというのだろう、どこか寂しく、体の力が抜けて自分が萎んでしまったかのような、懐旧の情が私の胸をいっぱいにする。
空っぽになったティーカップに新しいお茶を注いでくれながら、ベラさんはまるで遠い存在になってしまったかのように私を見た。