魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「……女には女の苦労があることはわかっているさ。しかし……俺が結婚相手に求めているのはもっと違うものだと、わかっているだろうに」

 ディクリドはノルシェーリア王国の最西端にある大きな領地を父から引き継ぎ、日々それを守ることに苦心している。つい半年ほど前にも、攻め込んできた隣国――マルディール王国の軍隊を陣頭で指揮を執って追い返したところで……結果ノルシェーリアは彼の国に賠償を約束させ、いくらかの領土を削り取った。

 当然この領土の大半は大きな功のあったディクリドに与えられようとしたが、彼は自領の運営で手一杯なことを理由にそれを国家へと返納した。今頃は、王命により任命された新しい領主が、彼同様領地運営に腐心してすることになっているだろう。

「この先も我がハーメルシーズ領を存続させ、より多くの領民を幸せにするには、よき後継者を育てなければならん。しかし、領主の俺が子供に割いてやれる時間はそう多くない。どうしても俺の代わりに、領民を愛し、彼らのために力を尽くすことの素晴らしさを教えてやれる人間が必要となるのだ。賢く慈しみ深く、強い心を持った伴侶がな。そうだろう、フィッツ」

 ディクリドは髪の間に隠れた金色の瞳を意思の光に輝かせ、しっかりと前を見据える。その様子に、愛称を呼ばれた貴公子の方――フィトロ・ランツも肩を竦めると苦笑した。
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