魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 私は彼に、自分がフィトロさんにまつわる噂を求めていることを明かした。すると彼は……。

「ふ~ん。フィトロの坊主か。ここに来た頃はこ~んなにちっこかったのによ。あっという間に手柄を立てて、今じゃハーメルシーズ伯の一番の側近だ。なに、お前さんもあいつを狙ってんのかい? だったらやめとけ、お貴族様に見初められちまったんだぜ、さすがに相手が厳しいってもんだ」
「ち、違います……けど! 彼に婚約者がいるというのは本当なんですか!?」

 その内容はベラさんの話と符合するし、詳しく聞いておきたい。だが、やれやれと肩を竦めた彼は、続きを聞こうと前のめりになる私を制止し、ぐっと杯を煽るような仕草をして見せた。

「待て待て。この先を聞きてえんなら、そうだなぁ。今度ファルメルの街に行った時に一杯奢ってくれるってのはどうよ。儲かってんならちっとくらい俺にもお裾分けしてくれたっていいんじゃねぇの? 色々世話してやったし、捨てられる魔導具だって譲ってやったろ?」

 魔導具の持ち主は城主であるディクリド様だし、後はこの人になんやかんや仕事を手伝わされた記憶しかないのだが……今はそれよりもフィトロさんの話だ。

「わかりました! お酒くらいならご馳走しますから、そのお相手のことっていうのを聞かせてください!」
「おっ、言ったな? そんじゃまた今度、家族総出で押しかけっから覚悟してろよ。そんでだ……その相手ってのはなぁ」
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