魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 耳を欹(そばだ)てる私について彼が語ったのは、こんな内容だった……。


 俺も人づてに聞いた話なんだがよ……。今から一週間くらい前か……このハーメルシーズ城に、一台の豪華な馬車が乗り入れたのさ。
そいつは、ハ―メルシーズ領からもうちょい王都側に位置する、ある領地からのもんだった。そんで、それを出迎えたのが、あのフィトロの坊主だったってわけよ。

 すっかり男ぶりの上がったやつが、馬車の出入り口でそれを待ち受けんだろ? すると、中からは金髪の、とんでもねえ美女がしずしずと出て来やがった。それをフィトロの坊主は挨拶すると、差し出された美女の手に軽く口づけしてよ、エスコートしながら城の中に入っていきやがったんだと。遠巻きにそれを見ていた男女たちからは、軒並みに羨望と落胆のため息がこぼれたそうだぜ……ったく、顔がいいってのは罪作りなもんだ――。


 身振り手振りでそんな噂を披露した後、ドンホリさんは興奮した様子で言った。

「しかもそれが馬車の紋章からして、どうも伯爵家の御令嬢って話らしくてよ。すわ婚約か、っちゅう話で密かに城内では盛り上がってるってわけだ」
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