魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「ということは……婚約が確定したということではないんですね?」

 ベラさんと話した時に彼に女性の影があるという話は聞いていたが、そんな高貴な身分の方と結婚話が進んでいるとは思わなかった。
 だが、私の疑問に、ドンホリおじさんはさも当然のように口を曲げる。

「いやまぁ、はっきりと聞いたわけじゃねぇけどさ。そりゃ、するだろ。ただの孤児だった男がよ、伯にその才覚を見出され、成り上がった果てについにゃお貴族様の結婚相手だぜ? それもお相手は滅茶苦茶な美人と来た」

 ドンホリさんは歌うようにフィトロさんの美点を挙げていく。

「あいつは、若い中でも一番の出世頭で領地こそないものの、戦で戦功を立てていまや子爵様だ。男前で、剣の腕前も中々で、頭も切れる。それでも、普通に考えりゃ領地なしの貴族の栄華なんて一代限りの代物だ。それがどうだ、領地持ちの貴族んところに婿入りなんてしてみろ。優秀な跡取りがいなくて余してる領地のひとつやふたつありゃ引き継がせてもらえるチャンスもあるかもしれねぇ」

 高位の貴族になると、爵位をいくつか兼ねる場合も珍しくない。結婚相手のお家の伯爵様が、長子に主たる伯爵位を譲った後、フィトロさんを慮って余らせた爵位を振り分けてくれる可能性も十分にあるのではないかと、ドンホリさんは言った。
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