魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 なんとなく経緯が把握できた私の前で、なにを思い出したのか愉快なドンホリおじさんは、じたばたと手足を振り回し始めた。

「おっとぉ……こんなとこで油打ってる場合じゃねぇんだった。今日も仕事が山積みなんでぇ! いいなサンジュ、覚えとけ! またてめぇらの店に顔を出すからよ、ちゃんとその時はきっちり酒を奢るんだぜ!」
「あっはい、ありがとうございました……!」

 年齢の割に達者な動きで元気に駆け去っていくドンホリさんに頭を下げると、私はその場でじっと考え込んだ。

(私は、リラフェンになにをしてあげたらいいんだろう……)

 私の頭の中に、背を向け合うリラフェンとフィトロさんの姿が浮かんだ。ふたりがただの家族だったなら、この先も関係は続く。リラフェンはすんなりと彼の結婚を受け入れ、祝福できただろう。

 でもふたりは、血縁上ではなんのかかわりもない他人なのだ。結婚後もそのような関係を続けることを、きっと相手側の家は許すまい。
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