魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 振り返ると私は息を止めた。そこには、やや心配そうな顔をしたディクリド様が私を見下ろしていたのだ。この人の無表情も、大分最近は読み取れるようになって来た。

「またなにか悩みができたのか? よし、それなら丁度いい。俺も気晴らしがしたいと思っていたんだ」
「ディクリド様!? どこへ――?」

 彼は強引に私の手を掴むと、ずんずんと引っ張っていく。

 こんな時なのに、深い悩みの海に沈みこんでいた私の胸は躍り出し、期待で一杯になる。私にとって、彼はいつのまにやら、よい出来事を運んでくれる幸福の象徴となっていたのだ。
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