魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
こうしていると、野生を残した馬の気持ちに少しだけ同調できる気がした。
息の続く限り大地を蹴り、どこまでも続く“緑”の海原をかき分けて真っ直ぐに進むのだ。そして世界の広さを全身で感じ、過ぎ去って二度とは戻らない瞬間をただ楽しむ――生きる。
ずっと続いて欲しいとも思えるその時間は、実際には小一時間。城の周辺をぐるりと回ったところで終わってしまった。
ハーメルシーズ城とファルメルの街を繋ぐ小高い丘の中間地点……なだらかな草地でディクリド様は馬を止めると、私を降ろしてくれた。
そしてその場にて疾走の余韻を味わっていた私を招き、芝生に座り込む。
「どうだった? 中々気持ちのいいものだったろう?」
「ええ……とても爽快でした。なんといいましょうか、すごく、自由になれた気がして」
私たちを乗せて走ってくれた黒馬――名前をシャルビュ号というのだが、彼は私たちと少し離れたところで地面に身体を横たえ、草を食んでいる。周りを蝶々が舞い、時折それに反応するように小さな耳がぴこぴこと上下している。
それを見つめながら、ディクリド様が残念そうに言った。
「この世を真に謳歌出来ている者など、ほとんどいないのだろうな……。血筋や資産の有無が身を縛り、己の思う生き方を貫ける者は一握りだ。それは動物とて同じなのかもしれん。彼らとて、俺たちなどに飼われなければ、気の赴くままもっと自由にこの世界を駆けまわれただろう……」
息の続く限り大地を蹴り、どこまでも続く“緑”の海原をかき分けて真っ直ぐに進むのだ。そして世界の広さを全身で感じ、過ぎ去って二度とは戻らない瞬間をただ楽しむ――生きる。
ずっと続いて欲しいとも思えるその時間は、実際には小一時間。城の周辺をぐるりと回ったところで終わってしまった。
ハーメルシーズ城とファルメルの街を繋ぐ小高い丘の中間地点……なだらかな草地でディクリド様は馬を止めると、私を降ろしてくれた。
そしてその場にて疾走の余韻を味わっていた私を招き、芝生に座り込む。
「どうだった? 中々気持ちのいいものだったろう?」
「ええ……とても爽快でした。なんといいましょうか、すごく、自由になれた気がして」
私たちを乗せて走ってくれた黒馬――名前をシャルビュ号というのだが、彼は私たちと少し離れたところで地面に身体を横たえ、草を食んでいる。周りを蝶々が舞い、時折それに反応するように小さな耳がぴこぴこと上下している。
それを見つめながら、ディクリド様が残念そうに言った。
「この世を真に謳歌出来ている者など、ほとんどいないのだろうな……。血筋や資産の有無が身を縛り、己の思う生き方を貫ける者は一握りだ。それは動物とて同じなのかもしれん。彼らとて、俺たちなどに飼われなければ、気の赴くままもっと自由にこの世界を駆けまわれただろう……」