魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 ゆえに、温室育ちの御令嬢では、すぐに親元に泣きついて実家に帰るか、重責に耐え切れず心を壊すかのどちらかとなるだろう。そうなってしまえば、真偽はともかく大事な娘を粗末に扱われたなどとして、相手側とせっかく築いた関係も御破算だ。
 そうならないためにも……結婚相手は慎重に選ぶべきと考えてなのか、あるいは感覚で判じたのかはわからないが、ディクリドは王都に住まう貴族たちの評価をばっさりと切って捨てた。

「無論だ。そしてやはり中央の貴族では駄目だろう。どいつもこいつも私財を肥やし、自らが民の上に立つことしか考えておらん。やつらにとって周りはすべて敵か、あるいは利用すべき駒でしかなく、その身分ですら自分たちの名誉欲を満たすただの勲章なのだ。国と、そこに住まう人々を守り抜くための爵位であろうが……これでは目的と手段が逆転している!」

 ディクリドは苛立ちを握りしめた拳に表すと、視線を険しくした。隣でフィトロはそれを諫め、冷静な意見を述べる。

「ですが現実問題、こちらと釣り合いが取れる家柄はそう多くはありませんよ。ハーメルシーズ家はいち辺境の伯爵家としてはいささか大きくなり過ぎた。だからわざわざ、こちらの方にまで良縁を求めて足を運んできたのでしょう」

 近隣の伯爵家以下の貴族は、ほとんどハーメルシーズ家と誼を結んでいるが、それはあくまで彼らが庇護を求めてのことだ。
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