魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「ありがと。あたし、体は丈夫だからそんなことされたの、うんと幼い頃くらいだわ。後は、お兄様が忙しくなる前くらい……」

 少しだけ嬉しそうにしながら、彼女は淡い笑みで微笑む。
 そのまま彼女を寝かせ、手を握っていると……彼女はぽつりぽつりと胸の内をこぼし出す。

「あたしさ……どっかで慢心してた。お義兄様は――あの人はたくさんの女の人が放っておかないくらい素敵なのに、あたしを一番に置いてくれる。いつだって、なにがあっても真っ先にあたしのところに帰って来てくれるんだって。たまたま、一緒に暮らしてた子供たちの中で交わした小さな約束を……彼が守ってくれてただけだったのに」

 リラフェンがフィトロさんのことを遠ざけようと無理をしているのがわかり、心が痛む。しかし私から口を挟むこともできず、黙ってその話の続きを聞いた。

「でもさ……。あの人は力も才能も人望も、人が望むものをたくさん持ってるのに……あたしがいるせいで、自分のために生きてくれようとしなかった。だから、今回のお話を彼が受けるつもりだと知った時、あたしはチャンスだと思ったの。さすがに婿入りしてまで、あたしのことを連れて行くわけにはいかないもんね……」

 フィトロさんの成功の影には、リラフェンへの強い想いがあったはずだ。でも彼女はそれには触れることなく、ひとつの決心を述べた。
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