魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 下で作業をして話が終わるのを待っていると、ふたりが一緒に降りてくる。でもその表情は明るく、お互いにとって大事な話はできたんだと、そう思った。そのままフィトロさんは頭を下げ、申し訳なさそうに感謝を告げたけれど、でも胸を張って堂々と去ってゆく。

 その後リラフェンはそのことについて話さなかったし、私もそれ以上追求したりはしなかった。



 そして現在、いくばくかの時が過ぎたが、フィトロさんが婚約したという話はついぞ聞いていない。相変わらずリラフェンは、大好きなお義兄さんとたまに会い、楽しそうに話している。
 少し変わったことといえば……リラフェンが、フィトロさんのことを、お義兄様、ではなくフィッツという愛称で呼ぶようになったことだ。
 今では彼らの距離は、傍目から見ても前よりももっと親密になったように感じる――。

 一日の終わりが近付き客が捌けた店内で、彼女が天井に向けてぐっと背を伸ばすと、大きく口を開けて疲れを逃した。

「あー、今日もよく働いた。でも、ぐったりしてないで明日も一生懸命やんなきゃね! この先の自分と未来を信じてくためにもさ!」

 彼女は機嫌よく鼻歌を歌い、店内を掃除し始める。
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