魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 今さらそのあたりの家から嫁を取っても力関係に変化は生じず、それでは意味がない。ディクリドが前領主から託されたこの領地を先々守り抜くためには、財力や軍事力、政治力など……なんらかの力をもたらしてくれる相手と婚姻を結ぶ必要がある。

「たとえ相手が、ハーメルシーズ家の武力を利用することしか考えていなくとも、強大な権力を持つ貴族と縁戚関係を築くのは大事なこと。私としてはお相手がどんな方かというのには目を瞑ってでも結婚し、他家との繋がりを強化すべきだと思いますよ。我らが故郷のことを考えるのならね」
「なら、お前が選んでいいぞ。信用できそうな家柄なら、相手は誰でも文句は言わん」
「参りましたね……」

 フィトロは半笑いになった後、白手袋をした優美な手を顎に添え、しばし考える。
 あくまでお家の事情を優先した婚姻になるとはいえ、彼としては大恩のある、この実直な主に幸せになって欲しいという想いは強い。
 なるべくなら心優しく、戦いで荒みがちな彼の心を癒してくれる女性と番になって欲しいものである。

「ふむ……そういえばディクリド様は女性に対する好みなどは本当にないのですか? いろいろあるでしょう。顔立ちは気品ある凛としたものか、それとも砂糖菓子の様に甘やかなものか。あるいは体型も、糸杉の様にすんなりとした方か、あるいは豊かで母性を感じられる方がいいとか……」
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