魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
彼は真っ当な努力は苦手だったが、姑息な策略で人を陥れるのは大好きだ。血の滲むような日々を繰り返して研鑽を積み上げて来たものたちが、自分の些細な悪意ひとつで失敗し、膝を屈する。その様を見ると、胸の奥がえもいわれぬ快感に包まれるのだ……。
今までも、自分に否定的な態度を取った使用人や、ファークラーテン家の邪魔になるものはすべて貶め、無実の罪を着せては社会から追放し、路頭に迷わせて来た。そしてそれをバレずにやるには、情報の収集がかかせないこともよく心得ている。そのために金をばらまいて手下を飼いならし、王都のみならずいくつかの都市から様々な情報を収集していた。
その努力を別のことに使ったならば、ひとかどの人物になれただろうが、彼はそのようなことを考えもしない。どんな手を使ってでも邪魔者は地獄へと突き落とす……それが彼の人生であり、探求すべき哲学であった。
「ご無沙汰しております」
「挨拶はいい。なにかいい知らせを持ってきたんだろう?」
着衣の乱れた女たちを後ろに控えさせ……室内で跪いた商人風の男をザドは、紙ぺらを眺めるような酷薄な瞳で見下げた。商人も慣れているのか、そのことには関心を向けず、事実だけを淡々と告げる。
「こちらをご覧ください。遠方のハーメルシーズ領近辺に住む者から買い上げた品でございます。あちらでは魔導具は今まで取り扱われていなかったはずなのですが、最近妙に広まりを見せているようでして……」
今までも、自分に否定的な態度を取った使用人や、ファークラーテン家の邪魔になるものはすべて貶め、無実の罪を着せては社会から追放し、路頭に迷わせて来た。そしてそれをバレずにやるには、情報の収集がかかせないこともよく心得ている。そのために金をばらまいて手下を飼いならし、王都のみならずいくつかの都市から様々な情報を収集していた。
その努力を別のことに使ったならば、ひとかどの人物になれただろうが、彼はそのようなことを考えもしない。どんな手を使ってでも邪魔者は地獄へと突き落とす……それが彼の人生であり、探求すべき哲学であった。
「ご無沙汰しております」
「挨拶はいい。なにかいい知らせを持ってきたんだろう?」
着衣の乱れた女たちを後ろに控えさせ……室内で跪いた商人風の男をザドは、紙ぺらを眺めるような酷薄な瞳で見下げた。商人も慣れているのか、そのことには関心を向けず、事実だけを淡々と告げる。
「こちらをご覧ください。遠方のハーメルシーズ領近辺に住む者から買い上げた品でございます。あちらでは魔導具は今まで取り扱われていなかったはずなのですが、最近妙に広まりを見せているようでして……」